2025/06/21 13:27

はじめに

包丁研ぎを始めて最初の一本として「#1000番の中砥石」を手に入れたら、次にどの砥石を買えばいいのか迷いますよね。選択肢としては、大きく分けて荒砥石(あらといし)か仕上げ砥石のどちらかがあります。荒砥石とは中砥石より目が粗い低番手の砥石、仕上げ砥石は中砥石より目が細かい高番手の砥石です。番号(番手)が小さいほど目が粗く金属を削る力が強く、番号が大きいほど目が細かく滑らかに仕上げることができます。

では、初心者には次に荒砥石と仕上げ砥石のどちらが適しているのでしょうか?本記事では、それぞれの砥石の役割や使うタイミング、扱いやすさ・メンテナンス性などを比較し、初心者にはどちらを先に揃えるべきかを解説します。



荒砥石とは?その役割と使いどき

荒砥石は粒度がだいたい#200~#400程度の、目の荒い砥石です。役割としては、錆落としや包丁の刃こぼれ修復、切れ味が極端に落ちた包丁の形状修正など、「金属を大きく削り落とす」場面で使います。例えば包丁の刃先に欠け(チップ)ができてしまった時や、長期間研いでおらず刃が丸まってしまった時には、まず荒砥石でしっかり研磨して刃の形を整える必要があります。

荒砥石は研削力(削る力)が非常に高く、短時間で刃先を削り取ることができます。そのため研ぎの土台作りとして、包丁がひどく傷んでいる場合には中砥石より先に荒砥石を使うと効率的です。



使うタイミング

普段の包丁研ぎですぐに荒砥石が必要になる場面は多くありません。包丁を定期的に研いでいれば、刃こぼれ修復のような大仕事はそう頻繁には起きないでしょう。荒砥石の出番は、「包丁が著しく切れなくなった時」や「刃こぼれ・欠けを発見した時」です。日常的なメンテナンスであれば、中砥石(#1000前後)だけで十分対処できます。

実際、専門店も「家庭用包丁の刃付けなら1000番くらいの中研ぎ砥石だけでも構いません。荒砥石は刃こぼれした時に使用し…」と述べています。つまり荒砥石は常用する砥石ではなく、「いざという時」に備えて持っておく砥石と言えます。



扱いやすさとメンテナンス(荒砥石)

扱いやすさ:
荒砥石は金属を削る力が強いため、初心者が使うときは削りすぎに注意が必要です。一度の研ぎで包丁の金属がゴリゴリ削れるので、研ぎ角度が安定しないまま力を入れすぎると、刃先を必要以上に薄くしたり、刃を傷めてしまう可能性があります。しかし、その反面、しっかりと刃先に刃角(ベベル)を付けたり刃こぼれを取ったりできるというメリットもあります。欠けのある部分だけを研ぐのではなく、刃線を崩さないように全体を研ぐように気を付ければ、初心者でも扱えないことはありません。みんな誰しも「最初は初心者」です。

メンテナンス性:
荒砥石は目が粗い分、減り(消耗)が早い傾向があります。研いでいると砥石の中央が凹みやすく、平面を保つために面直し(砥石を平らに修正すること)をこまめに行う必要があります。

荒砥石は比較的柔らかめのものが多く、砥泥がよく出ますが、基本的には研いでいる最中に洗い流さず研磨剤を含む泥をを活かして研ぎ続けます。この泥が刃先を削り、効率よく研げるからです。作業後は砥泥をしっかり洗い流して保管します。



初心者におすすめの荒砥石商品

初心者が次に買い足す荒砥石として、以下のような製品が人気です。

キング 砥石の王様 PB-05(#220/#800 コンビ砥石)
日本の定番メーカーであるキング(松永トイシ)の両面砥石です。荒研ぎ用の#220と、中研ぎ用の#800が裏表になっています。#220で刃こぼれ修正や荒研ぎを行い、裏面の#800である程度滑らかに整えることができます。サイズは約185×63×25mmで、家庭用包丁には十分な大きさ。プラスチック製の台座・ケース付きで保管もしやすいです。価格も比較的手頃で、2つの番手のセットになっているので最初に持つ荒砥石としてコストパフォーマンスに優れています。

シャプトン 刃の黒幕 #320 荒砥石(ブルーブラック)
シャプトンの刃の黒幕シリーズは高品質なマグネシア砥石で有名です。その#320荒砥石(通称ブルーブラック)は荒砥石としての硬度と研削力のバランスがとてもよい砥石です。
サイズは210×70×15mmと、研ぎ面はレギュラーサイズの面積ですが、厚さが15mmは刃物をガンガン直すプロの方には物足りないかもしれませんが、たまに刃欠けを直すぐらいのご家庭の使用では充分です。

砥石は研磨剤と結合剤の相互作用により、僅かな配合の違いで締まり具合が大きく違ってくることがあります。黒幕#320は、硬すぎず柔らかすぎず、研磨剤の性能を遺憾なく発揮できる荒砥石してのバランスに優れた砥石です。


ALTSTONE 深#300
手前味噌になってしまいますが、ALTSTONE深#300もよくできた荒砥石です。深#300は旧版(グレー)から改良して現在のホワイトになった経緯があります。プロの研ぎ師の方や、研ぎを深く追求されている方々の意見を聞きながら最終的に決まった仕様です。研磨剤の性能を完全に発揮できる「ちょうどよい」硬度と研削力のバランスを追求して、現在のホワイトに落ち着きました。

サイズは180mm×60mm×20mmと小さめで、こちらもガンガン使う方には物足りなさがあります。


仕上げ砥石とは?その役割と使いどき

仕上げ砥石は粒度がおおよそ#3000~#8000程度の、目の非常に細かい砥石です(#3000~#4000あたりが一般的な「仕上げ砥石」、#6000以上は「超仕上げ」と呼ぶ場合もあります)。役割は、中砥石で研いだ刃先をさらに滑らかに磨き上げ、刃の切れ味をワンランク向上させることにあります。

中砥石だけで研いだ状態では、刃先には顕微鏡レベルで見ると細かなギザギザ(研ぎ傷や微小な鋸歯状の凸凹)が残っています。仕上げ砥石で研ぐとその傷が磨かれて刃先が整い、切れ味が鋭く滑らかな刃になります。まさに研ぎ作業の最終段階で使う「仕上げ」の砥石です。


使うタイミング

包丁を普段からよく研いでいる方や、切れ味にこだわりたい場合に仕上げ砥石の出番があります。具体的には、中砥石(#1000程度)でしっかり刃先の形を整えた後、「もっと切れる刃にしたい」「包丁の切れ味を長持ちさせたい」と感じたら仕上げ砥石を使ってください。

例えば、刺身包丁や柳刃包丁など繊細な切れ味を求められる包丁は、中砥石で刃付けした後に仕上げ砥石で研磨することで、食材の細胞を潰さず美しい断面で切れるようになります。家庭用の三徳包丁や牛刀でも、仕上げ砥石で仕上げるとトマトの薄切りがスッと引くだけで切れたり、紙をスーッと押し切れるような鋭い刃になります。

ただし日常の料理用途では中砥石仕上げの程よいザラつき(微細な鋸歯状の刃先)が食材を捉えやすいという利点もあり、仕上げ砥石仕上げの鏡面のような刃が常に必要というわけではありません。ですので「余裕があれば仕上げもすると良い」という位置づけです。

プロの包丁研ぎ職人や熱心な家庭料理家は中砥石→仕上げ砥石の工程を踏みますが、そこまで切れ味に不満がなければ使わなくてもOKです。

ワンランク上の切れ味を求めたくなったら仕上げ砥石を検討してみてください。


仕上げ砥石のメンテナンス性

扱いやすさ:
仕上げ砥石は荒砥石と逆で金属を削る力はマイルドで、余分に金属を削り落とす心配は少ないです。

むしろ仕上げ砥石は「ちゃんと研げているか実感しにくい」と感じるかもしれません。中砥石までとは違い、刃先にできる「返り(バリ)」が小さく分かりづらいので、研ぎの感覚を掴むのに最初は時間がかかるでしょう。しかし、ゆっくり丁寧に研ぎ続けると、刃は紙のような薄いものもスッと切れる鋭さになります。その切れ味の変化を体験すると研ぎの楽しさが増すはずです。

試し切りは新聞紙やコピー用紙を刃先でゆっくり引いてみて、引っかからずにスーッと切れればOKです。初心者でも正しい角度を保てれば仕上げ研ぎは決して難しくありません。

メンテナンス性:

仕上げ砥石は目が細かい分目詰まり(砥石表面に研ぎカスが詰まること)が起こりやすいです。研いでいて砥石の表面が黒っぽく滑りやすくなってきたら、名倉砥石(砥石を擦って表面を洗浄・粗し直す小さな砥石)やダイヤモンド砥石などで表面を軽く擦って泥を出すと良いでしょう。

砥石によっては使用前に数分の浸水が必要ですが、中には「splash & go(浸け置き不要ですぐ使える)」タイプの仕上げ砥石もあります。例えばシャプトンのガラス砥石シリーズなどは水に浸けずに研ぎ始められます。初心者の場合は浸水が必要な砥石でも特に問題ありませんが、使用後はしっかり乾燥させてから保管する点に注意しましょう(仕上げ砥石は割れ防止のため長時間水に浸けっぱなしにしない方が良いとも言われます)。

総じて、仕上げ砥石の手入れは荒砥石ほど頻繁ではありませんが、良い状態を保つには時折の面直しと清掃が肝心です。


初心者におすすめの仕上げ砥石

次に購入する仕上げ砥石として、初心者に人気の製品を紹介します。

キング 仕上砥石 S-2 #6000
初心者から上級者まで幅広く愛用者がいるキング社の仕上げ砥石です。粒度#6000は包丁の最終仕上げ用として定番の番手で、中砥石で研いだ後にこの砥石で研ぐと、滑らかな鋭い刃が付くと評判です。サイズは約207×66×20mmと一般的で、砥石台(台座)付きなので安定して研げます。比較的軟らかめの砥石なので初心者でも刃に吸い付くような感触で研ぎやすい一方、長時間の浸水は避け、使用前に3~5分程度水に浸すだけでOKです。価格帯は税込みで3,000円前後と手に取りやすく、コストパフォーマンスに優れています。「まずは手頃な仕上げ砥石を試したい」という初心者に最適でしょう。Amazonで見る

スエヒロ 仕上砥石 #3000(No.3003-S)
砥石メーカーの末広(スエヒロ)から出ている#3000の仕上げ砥石です。#3000は一般的な仕上げ砥石として扱いやすい粒度で、家庭用包丁の刃先を十分に鋭利に仕上げることができます。スエヒロの仕上げ砥石(型番3003-S)は砥石台付きで安定して研げ、使用前に10分程度水に浸せばOKという水準です。程よい硬さで研ぎ心地も良く、初心者でも扱いやすいと好評です。値段は税込みで約3,800円程度。名倉砥石(修正用の小砥石)も付属しており、砥石表面の目詰まり解消や仕上げ研ぎの際に役立ちます。予算に余裕があれば、ワンランク上の切れ味を求める一般ユーザーにぜひ使ってみてほしい製品です。公式サイトを見る

(※上記の価格や在庫状況は2025年5月執筆時点の情報です。購入時は最新の価格をご確認ください。Amazonや楽天市場、メーカー公式オンラインショップなどから購入できます。)


荒砥石 vs 仕上げ砥石:結局どちらを次に買うべき?

ここまで荒砥石と仕上げ砥石の特徴を見てきました。それでは、初心者が1000番の中砥石に続いて次に揃えるべきなのはどちらか?

結論を言えば、多くの場合「仕上げ砥石」を次に購入することをおすすめします。

おすすめ理由:
一般的な家庭用包丁であれば、中砥石(#1000程度)があれば日常の切れ味維持には十分対応できます。刃こぼれ修復用の荒砥石は、包丁が欠けたりよほど切れ味が落ちたりしない限り出番がなく、初心者が最初に急いで揃える必要性は高くありません。一方、仕上げ砥石があると、現状でも切れる包丁をさらに磨き上げて「感動する切れ味」を体験できます。

中砥石だけで研いで「まあまあ切れる」状態から、仕上げ砥石を使って「スッと新聞紙が切れる」レベルまで引き上げられると、研ぎのモチベーションもアップします。実際、刃物メーカーの指南でも「まず中砥石#1000を持ち、余裕があれば仕上げ砥石#4000もあると良い」とされています。仕上げ砥石を使うことで刃先が滑らかになり、ワンランク上の切れ味に仕上がるからです。初心者にとっても、仕上げ砥石での研ぎ工程を経験しておくことは今後のスキルアップに役立ちます。


荒砥石はいつ買う?

では荒砥石が不要かというと、決してそうではありません。包丁を長く使っていれば、いずれ刃こぼれや切れ味の大幅低下に直面することがあります。そのとき荒砥石がないと修復に非常に時間がかかったり、最悪研ぎ直しできなくなったりします。ですから、「いざという時」の保険として荒砥石も最終的には揃えるのが理想です。

まずは普段から使える仕上げ砥石で研ぎの幅を広げ、その後必要に応じて荒砥石を購入すると良いでしょう。包丁が荒砥石が必要な状態になったら自分でやらずにプロの研ぎ師に頼むというのもよいでしょう。


まとめ

#1000の次の一手として選ぶなら、仕上げ砥石を購入する方が多いようです。中砥石→仕上げ砥石の二段構成が揃えば、日常の包丁研ぎで切れ味を維持しつつ、「もっと切れる刃にしたい」という要求にも応えられるようになります。仕上げ砥石を当てた包丁の切れ味を味わえば、研ぎ作業が一層楽しく感じられるでしょう。

一方で、荒砥石は包丁にトラブル(欠け・極度の摩耗)が発生した際の強い味方です。最終的には荒砥石・中砥石・仕上げ砥石の三つが揃うのが理想的ですが、初心者の段階ではまず日常で使う中砥石と仕上げ砥石を揃えておけば十分です。ぜひ次の砥石選びの参考にしてみてください。研ぎの道具が増えれば、包丁のお手入れがますます楽しくなりますよ。