2025/06/29 01:15
【結論】名倉砥石は、研ぎ汁(とくに研磨を助ける泥)を素早く出して刃当たりを滑らかにし、研ぎを安定させるための補助砥石です。面直し砥石とは役割が別物。
この記事では、名倉砥石の役割、使い方、よくある誤解、そして天然・人造の違いまで、1記事で完結する形で解説します。
この記事の内容を実際に試してみたい方には、標準的な人造名倉「ALTSTONE 名倉砥石 #1000」がおすすめです。
この記事の内容
- ・名倉砥石は何のため?役割を1行で
- ・どんなときに使うのか(4つのケース)
- ・名倉砥石の使い方
- ・名倉砥石の粒度の選び方
- ・よくある誤解:「面直し砥石」ではない
- ・名倉砥石は本当に必要?いらない?
- ・天然名倉と人造名倉
- ・名倉砥石を使うメリット
- ・まとめ

名倉砥石(なぐらといし)は、刃物を研ぐときに「もう一つ」用意する小さな砥石ですが、実際のところ何のために使うのか、よく分からないまま使っている方も多いはずです。
特に多いのが「小さな面直し砥石」と勘違いされているケース。名倉砥石と面直し砥石は、まったく違うものです。
名倉砥石は何のため?役割を1行で
名倉砥石の役割は、一言で言えば「刃物が滑りやすい時の食い付きアップ」これに尽きます。
仕上げ砥石などの硬い砥石で研いでいると、刃物がツルツルと滑って研ぎにくいことがあります。そんなときに名倉砥石で「砥汁(とじる)」をつくると、刃物がしっかり食い付いて、気持ちよく研げるようになります。
どんなときに使うのか(4つのケース)
刃物が滑りやすくなる場面は、主に4つあります。
① 硬い砥石で研ぐとき
砥石が硬いと摩擦係数が低くなり、刃物がツルツル滑ります。仕上げ砥石は中砥石より硬めに作られていることが多いので、仕上げの工程ほど名倉砥石の出番が増えます。
② 硬い刃物を研ぐとき
刃物の素材も硬いほど滑りやすくなります。ハイス鋼や粉末鋼など硬い鋼材は、名倉砥石を併用すると研ぎ感が安定します。
③ 研ぎ始め
砥汁がまだ充分に出ていない研ぎ始めは、刃物が滑りがちです。最初に名倉砥石で砥汁を作ってから研ぎ始めると、最初から食い付きの良い状態で研げます。
④ 目詰まり時
研いでいるうちに、刃物の研ぎカスが砥石にこびりついて目詰まりすることがあります。こうなると刃物が滑り、研磨力も落ちます。名倉砥石で表面を擦ると、目詰まりが解消されて目が立ち直ります。
名倉砥石の使い方
使い方はとても簡単です。

- STEP 1: 砥石本体と名倉砥石、両方を水に充分浸ける
- STEP 2: 砥石の表面を、名倉砥石で円を描くように擦る
これだけで、白くにごった砥汁ができます。しっかり擦って砥汁を多めに作るのもよし、たった3〜5回擦るだけでも、名倉を使わない時と比べると雲泥の差を感じられるはずです。
使用後は砥石も名倉も水でよく洗い流して保管します。
名倉砥石の粒度の選び方
名倉砥石を選ぶ際に、最も重要なポイントです。
砥汁を研ぎに使う場合
例えば:
- ・砥石本体が#1000なら、名倉は#1000かそれ以上の細かさ
- ・砥石本体が#3000なら、名倉は#3000かそれ以上の細かさ
目詰まり解消だけが目的の場合
砥汁を洗い流して使わないなら、神経質になる必要はありません。むしろ砥石本体よりやや粗めの名倉砥石の方が、目詰まりを効率的に直せます。
よくある誤解:「面直し砥石」ではない
名倉砥石でもっとも多い誤解が、「小さな面直し砥石として使えるのでは?」というものです。
結論からいうと、名倉砥石で面直しはできません。面直しは専用の修正砥石で行います。やり方は「砥石の面直しとは?平らに保つ理由・タイミングと、修正砥石でのやり方」をご覧ください。
目的がそもそも違う
- ・名倉砥石:刃物の食い付きを上げる(砥汁を作る)ためのもの
- ・面直し砥石:凹んだ砥石を平らに修正するためのもの
商品の特性も違う
面直し砥石は、平面を維持するために硬く作られています。一方、名倉砥石は自らが少しずつ削れて砥汁を供給する役割もあるので、それほど硬くありません。
サイズの問題
何より、名倉砥石は表面積が小さすぎます。自分の何倍もある砥石本体を平らにすることはできません。

砥石本体の凹みの中に小さな名倉砥石がスポッとはまってしまうので、平らにするどころか、凹みをさらに深くしてしまう結果になります。面直しには、砥石本体と同じか、それ以上の長さの専用の面直し砥石を使ってください。
名倉砥石は本当に必要?いらない?
「名倉砥石なんていらないんじゃないか」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。実際、必ずしも全員に必須というわけではありません。
名倉砥石が必要な人
- ・仕上げ砥石(#3000以上)を使う人
- ・硬めの刃物(粉末鋼など)を研ぐ人
- ・少しでも快適に・効率よく研ぎたい人
- ・目詰まりに悩んでいる人
名倉砥石がなくてもいい人
- ・中砥石(#1000前後)だけで日常メンテナンスをする人
- ・砥石が比較的軟らかく、砥汁がよく出るタイプの場合
- ・研ぎ始めから違和感なく研げている場合
要するに、研ぎが滑りやすい・進みにくいと感じたら名倉を試す、そうでなければ無理に揃える必要はない、というのが正直なところです。
天然名倉と人造名倉
名倉砥石には、天然のものと人造のものがあります。
天然名倉砥石(三河白)
本来「名倉砥石」は、愛知県北部(旧三河国北設楽郡三輪村)が主産地の天然砥石を指します。別名「三河白(みかわじろ)」とも呼ばれ、伝承では足利時代に狩人・名倉左近が山中で発見した石が起源とされています。
天然名倉砥石は砥粒が非常に精細で適度な硬軟があり、古くから刀剣や包丁の最終仕上げに重用されてきました。江戸時代までは幕府御用の研ぎ師にも納められていた歴史があります。
ただし、良質な天然名倉砥石は明治時代にほぼ採掘し尽くされており、現在は良質なものほど入手困難な希少品となっています。
人造名倉砥石
天然のものが希少で高価になったため、近年は各社から人造の名倉砥石が販売されています。合成砥粒(炭化ケイ素、アルミナなど)を使って作られており、粒度が明確、形やサイズが一定で、初心者にも扱いやすいのが特長です。
歴史的な意味では「名倉砥石=三河白の天然砥石」を指しますが、現在では人造のものも含めて「名倉砥石」と呼ぶのが一般的になっています。
名倉砥石を使うメリット
ここまでの話をまとめると、名倉砥石を使うメリットは主に3つです。
① 研ぎスピードの向上
砥汁の働きで研磨力が増し、短時間で鋭い刃がつきます。硬い砥石・硬い刃物の組み合わせでは効果てきめんです。
② 仕上がりの質感
砥汁の働きで刃面にきめ細やかな霞(かすみ)が生まれ、地金が独特の落ち着いた表情に仕上がります。日本刀の刃文(はもん)を映えさせる「霞研ぎ」に名倉砥石が欠かせない存在だったのも、この曇り系の質感を作り出せるからです。
③ 研ぎが快適になる
刃物の「食い付き」が上がるので、研いでいる感覚が安定し、研ぎそのものが楽しくなります。
まとめ
名倉砥石は、刃物が滑りやすい時に「食い付き」を上げてくれる小さな砥石です。
- ・仕上げ砥石を使うとき
- ・硬い刃物を研ぐとき
- ・研ぎ始めや目詰まり時
こんな場面で名倉砥石を使うと、研ぎ感が見違えます。
そして大事なポイント——名倉砥石は「面直し砥石」ではありません。それぞれ役割の違う道具だということを理解した上で、適切な場面で使い分けてみてください。
歴史ある三河白の天然砥石から、現代の扱いやすい人造名倉まで、あなたの研ぎライフに合った1本を見つけて、研ぎの時間をもっと豊かなものにしてください。
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