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2026/05/24 12:56

【結論】ALTSTONEの荒砥石「深#300」は、相反しがちな「面持ち」と「食い付き」というふたつの性質を高いレベルで両立させるため、半年におよぶ試行錯誤の末に生まれました。たどり着いた答えは、火入れや配合の大幅な変更ではなく、もともと使っていた結合剤の粒度を細かくするという、意外にも身近な工夫でした。

この記事では、旧版へのユーザーの声から改良が始まった経緯、試行錯誤の内容、そして「灯台下暗し」の答えにたどり着くまでの開発物語を、といし屋「碧」の視点でお伝えします。

商品が気になる方は「ALTSTONE 荒砥石 深#300」からどうぞ。

この記事の内容

ALTSTONEの荒砥石「深#300」は、最初のバージョンから、ユーザーの声をもとに改良を重ねて、現在の形にたどり着きました。

この記事は、その開発の物語です。

「面持ち」と「食い付き」という相反する性質を両立させるために、私たちがどんな試行錯誤をしたか。そして、いろいろ遠回りした末に辿り着いた「灯台下暗し」の答え——砥石づくりの難しさと、そこから見えてきたものを、開発の経緯に沿ってお話しします。

※荒砥石全般の選び方や、家庭で本当に必要かどうかについては、「荒砥石は必要?選び方・使い方」もご覧ください。

1. はじまり:旧版の深#300とユーザーの声

旧版の深#300がリリースされたあと、2023年末にSNS投稿キャンペーンを実施しました。砥石を実際に使ってくださった方々から、直接お声をいただく機会を作るためです。

多くのご意見をいただいたのが「面持ち」と「砥石への刃の食い付き」のバランス。両方とも荒砥石としての実用性に直結する要素です。

声を分析していくと、この2つのバランスを改善する余地がありそうだ、というのが見えてきました。

※このお声を受けて改良を検討し始めた当時の様子は、開発メモ「ただいま開発中です。」でも触れています。

2. 砥石づくりの根本的なジレンマ

「じゃあ、その2つを改善しよう」と言うのは簡単でも、実はこれが砥石づくりにおける最も難しい課題のひとつです。

なぜなら、「面持ち」と「食い付き」は相反しがちな性質だからです。

  • ・面持ちを良くしようとして砥石を硬くすると、刃物が滑りやすくなる
  • ・刃をしっかり食い付くようにしようと柔らかくすると、面持ちが落ちる

「あちらを立てればこちらが立たず」——砥石を開発するとき、いつもここに泣かされます。

ALTSTONEの「深」というシリーズは、泥研ぎで刃へのアタリがやさしいというコンセプトを持っています。改良では、このコンセプトを守りながら、面持ちと食い付きのバランスを改善する必要がありました。

3. 試行錯誤の半年

改良に取り組み始めたものの、結論にたどり着くまで半年かかりました。

まず試したこと:火入れの加減

最初に試したのは、火入れの加減で硬さを調整するアプローチです。焼成温度を変えることで、砥石全体の硬度バランスを調整できます。

何パターンか試したのですが、結果は「あちらを立てればこちらが立たず」。砥石の難しさを再確認しただけで、ちょうど良いバランスは見つかりませんでした。

次に試したこと:結合剤の配合変更

そうなると次は、結合剤の種類や配合を試す番です。

このとき注目したのは、結合力に影響するガラス質の割合でした。配合を変えることで、ちょうど良いところが見つかるのではないか——そう仮説を立てて、色々と試しました。

しかし、ここでもなかなか良い結果が得られません。「深」のコンセプトを守りながらバランスを改善するのは難しいのかもしれない——正直、弱気になりかけていた時期もありました。

4. 灯台下暗し

そんなとき、ふと思いついたことがありました。

「結合剤のグレードを上げたらどうなるんだろう?」

「グレードを上げる」というのは、結合剤(土)の粒度を細かくするということです。原料の配分をあれこれ変えるのではなく、粒子そのものを細かくしてみる。ただそれだけです。

なぜこの時にそれを思いついたのか、また逆に、なぜそれまで思いつかなかったのか。理由は説明できません。ふと「やってみよう」と思った、それだけです。

試してみたところ、結果はかなり良好でした。

「面持ち」と「食い付き」のバランスが、これまでにないレベルで改善されていました。しかも、もともと「深」で使っている結合剤の粒度を変えただけですから、「深」らしさは失われていません。むしろ、アタリの良さといった研ぎ感の「深」らしさが増したくらいです。

なぜそうなったか、化学的には推測の域を出ませんが、

「結合がぎゅっと引き締まり、かつ、小さな結合剤の粒径が研磨剤を邪魔しなくなった」——そういうことなのだろう、と考えています。

いろいろと遠回りして辿り着いた答えが、もともと使っていた「深」の結合剤だったというのが、なんとも言えない結末でした。

「灯台下暗し」とは、こういうときに使う言葉なのだなと、しみじみ感じた次第です。

5. 現在の深#300

こうして、「面持ち」と「食い付き」のバランスが一段高いところで実現された、現在の深#300ができあがりました。

完成した深#300の特徴:

  • ・「面持ち」と「食い付き」が高い次元でバランス:荒砥石らしい削る力と、安定した平面を両立
  • ・「深」らしさのキープ:泥研ぎで刃へのアタリがやさしい研ぎ感はそのまま、むしろ増した
  • ・白色の砥面:旧版から改良されたバージョン

刃こぼれの修復、新品包丁の刃角調整、DIY刃物の整形——荒砥石として求められる仕事をこなす1本になっています。

6. 砥石づくりから見えたもの

開発の過程で改めて感じたのは、砥石は本当に難しいということでした。

火入れ、結合剤、配合、粒度——いくつもの変数が絡み合って、最終的な研ぎ味が決まります。一つを変えれば別のところに影響が出る、その繰り返しです。

そして「灯台下暗し」の経験から学んだのは、正解は意外と近くにあること、そしてそこに気づくまで遠回りすることもあるということでした。

ALTSTONEは、こうした試行錯誤の中で、ひとつひとつの砥石を仕上げています。「深#300」はその過程から生まれた、私たちなりの答えの一つです。

同じ試行錯誤の中から生まれた砥石には、研削力を突き詰めた限定荒砥石「削 SOGU」もあります。ALTSTONEというブランドがどんな考え方で砥石をつくっているのかは、ALTSTONEについてでもご紹介しています。

🪨 深#300について

ALTSTONEの荒砥石「深#300」は、上で紹介した試行錯誤の末にたどり着いた、現在の形です。

  • ✅ 「面持ち」と「食い付き」が高いレベルでバランス
  • ✅ 結合剤のグレードを上げて「深」らしさはそのままに改良
  • ✅ 家庭の包丁の刃こぼれ修復、DIY刃物の整形に対応

次に読む1本

荒砥石は必要?選び方・使い方

この記事を書いた店:といし屋「碧」(ALTSTONE)。日本製砥石の専門店・メーカー。自社ブランドALTSTONEの砥石開発と、新商品の試験研ぎを日々行いながら、スエヒロ・キング・大谷砥石など国産砥石を厳選して取り扱っています。ブログでは、砥石屋だから書ける包丁研ぎと砥石選びの実践知識を発信しています。→ お店について