2026/06/03 06:43

「砥石」と一口にいっても、その世界は驚くほど多様です。粒の粗さを表す番手の話、土と樹脂とマグネシアで作り分ける製法の話、白いアルミナと緑の炭化珪素という砥粒の話——「同じ番手なのにメーカーで全然違う」「キング砥石とシャプトン、何が違うのか」といった疑問は、砥石を分類する軸が複数あることに気づくと整理しやすくなります。
この記事では、砥石を 「番手」「製法(結合剤)」「砥粒(研磨材)」 という素材視点の3軸で分類しなおし、それぞれの違いを解説します。私たち ALTSTONE は、純日本製の砥石を扱う立場から、業界目線も交えてお話しします(「鋼材から逆引きする砥石の選び方」は別記事に分けてあります)。
砥石の正体|3つの要素と5つの因子
砥石は一枚の固体に見えますが、ミクロで見ると 3つの要素 から成り立っています。これは JIS 規格にも準拠した、砥石業界共通の見方です。
② 結合材(けつごうざい)— 砥粒同士を結びつける「のり」
③ 気孔(きこう)— 砥粒と結合材の間にできる微細な空隙
気孔は焼成時に結合材中の水分が抜けてできる空隙で、研ぎ中は水分を保持し、砥粒・削りカスと混ざって 砥泥(とでい) を形成します。気孔の量に応じて砥石全体の密度や結合の強度が変わり、砥粒の脱落・更新の起こりやすさ(=自生作用)にも間接的に影響します。気孔が削りカスで埋まってこのサイクルが止まると、研磨力を失います(これを「目詰まり」といいます)。
そして使用感を決めるのは、3要素に 粒度(砥粒の大きさ)と 結合度(砥粒の固定強度)を加えた5因子です。
- 砥粒の種類:アルミナ系・炭化珪素系・ダイヤモンド等
- 粒度:番手として表記される、粒の粗さ・細かさ
- 結合度:砥粒の固定強度。Aに近いほど軟らかく、Zに近いほど硬い(JIS基準)
- 組織:気孔の密度。組織が粗いほど気孔が多い
- 結合材:ビトリファイド・レジノイド・マグネシア等
同じ「#1000の中砥石」でも、5因子のうち4因子(種類・結合度・組織・結合材)が違えば、まったく別物の使用感になります。これが「同じ番手でもメーカーで全然違う」現象の本質です。
自生発刃作用|砥石が「切れ続ける」仕組み
研いでいる最中、砥粒は摩耗し、丸くなって切れ味を失う前に結合材から脱落したり粒自体が砕けたりして、新しい鋭利な面が表面に現れる——これを 自生発刃作用 といいます。人造でも天然でも起こる現象で、たとえば AZ(ジルコニアアルミナ)のように、粒が砕けて新しい刃面を出すことを設計目標とした砥粒もあります。砥石が長時間切れ続けるのは、この自生発刃のおかげです。
番手(粒度)による分類
もっとも馴染みのある分類軸が 番手(ばんて)。砥粒の大きさを示し、数字が小さいほど粗く、大きいほど細かい粒度を表します。
| 分類 | 番手の目安 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 荒砥石 | #80〜#400 | 大きな刃こぼれ修正、形状の作り直し |
| 中砥石 | #800〜#2000 | 日常メンテナンス、切れ味の回復 |
| 仕上げ砥石 | #3000〜#8000 | 刃先の鋭利化、滑らかな切れ味 |
| 超仕上げ砥石 | #10000以上 | 鏡面仕上げ、刃艶の演出 |
家庭用包丁は中砥石(#1000)1本で十分カバーできます。仕上げ砥石は「切れ味を追い込みたい」場面で意味を持つ道具。荒砥石は刃こぼれという例外時のみ必要です。
製法(結合剤)による分類
砥石業界の人間が砥石を見るとき、番手と並んで気にするのが 製法(結合剤)。結合剤が違えば、研ぎ味も、吸水の必要性も、耐久性も、設計の自由度も変わってきます。
粘土・長石・ガラスといった鉱物質の土を、砥粒と混ぜて高温で焼き上げる、砥石製造における中核的な焼成プロセス。キング砥石 に代表される、日本で長く使われてきた製法でもあり、砥粒保持力が強く精密研削に適していて、包丁用人造砥石ではこの製法が主流です。使用前には 5〜15 分の吸水が必要で、十分浸さないと目詰まりが起きやすくなります。
酸化マグネシウムと塩化マグネシウム溶液を反応させ、常温で硬化させる結合方式。シャプトン に代表される、「セラミック砥石」とも呼ばれる現代的な製法です。使用直前に水をかけるだけで使える手軽さが特徴で、長時間水に浸すと劣化するため、吸水運用は基本的にしません。
フェノール樹脂を熱で硬化させる結合方式。弾力性のあるソフトな当たり が特徴で、工業用研削砥石(電動グラインダー用)のほか、刃物用の手研ぎ砥石でも採用例があります。吸水は基本不要で、手入れが楽な反面、「カチッとした硬い研ぎ味」を求める場面では物足りなく感じられることも。
金属で砥粒を保持する方式。ダイヤモンド砥石 や CBN 砥石 はこの方式で作られます。砥粒保持力が極めて強く、面が崩れにくいため面直しがほぼ不要。電着タイプは砥粒層が薄く寿命に限りがあり、焼結タイプは厚い層で高耐久ですが高価です。
ALTSTONE の選択|なぜビトリファイドが主軸なのか
私たち ALTSTONE は、主軸を ビトリファイド製法 に据えています。理由は、結合材として使う土の種類・配合、焼成の温度・時間というパラメータが事実上無限に組み合わせられるから。これらの組み合わせ次第で、刃物との相性・研ぎ味・耐久性をピンポイントで設計しやすい製法です。あわせて レジノイド製法 もラインナップに展開しており、用途・好みに応じた選択肢を提供しています。
砥粒(研磨材)による分類
結合剤と並んで重要なのが、実際に刃物を削る 砥粒 の素性。砥粒は大きく一般砥粒と超砥粒に分かれます。
A系|アルミナ(酸化アルミニウム)系
ボーキサイトから精錬される人造の研磨材で、包丁用砥石でもっとも一般的。靭性(粘り強さ)が高く、研ぎ感としては「鋭利」と評されることが多く、ステンレス・炭素鋼の両方をバランスよく研げます。
| 記号 | 名称 | 特徴 |
|---|---|---|
| A | 褐色アルミナ | もっとも一般的、靭性高い、汎用 |
| WA | 白色アルミナ | 純度が高く硬い結晶。焼入鋼に適性あり |
| HA | 高純度白色アルミナ | 最高純度、精密研削向け |
| AZ | ジルコニアアルミナ | 高靭性、微小破砕が特徴、重研削用 |
C系|炭化珪素(カーボランダム)系
A系より 砥粒自体の硬度は高いが、靭性は低い ため、鉄を削ると砥粒が消耗しやすい性質があり、包丁よりは石材・鋳鉄・非鉄金属・超硬合金・セラミックの研磨に多用されます。C(黒色炭化珪素)は一般用、GC(緑色炭化珪素)は純度が高く、セラミック包丁などに使われます。
超砥粒|ダイヤモンドと CBN
- ダイヤモンド砥石 — 地球上最硬の物質。セラミック包丁・超硬合金・ガラスなど、通常の砥石で研げない素材に対応。ただし熱に弱く、鉄系と高温で反応して消耗する性質も
- CBN 砥石 — ダイヤモンドより硬度は低いが熱に強い。焼入鋼や粉末ハイス鋼など、高硬度の鉄系刃物に最適





