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2026/06/03 06:56


「自分の包丁にはどんな砥石が合うのか」——この問いに、HRC(硬度)だけで答えるのは不正確です。研ぎとは砥石で刃物を意図的に摩耗させる行為であり、鋼材側の「研ぎにくさ」は本質的に 耐摩耗性 と同じもの。そして耐摩耗性は、HRC ではなく 鋼に含まれる炭化物の量と硬さ で大きく決まります。

この後編では、用途別の砥石分類、結合度(硬口・軟口)の話、そして 鋼材5分類による砥石逆引き表 までを実践ガイドとしてまとめます。

01

用途別の砥石分類

素材の話の次は、用途別の砥石分類です。同じ「砥石」でも、置かれる役割で形状や設計が変わります。

一般角砥石|定番の四角い砥石

長方形の標準的な砥石。片面に1つの番手の「単面砥石」と、表裏で番手の違う「両面砥石」があります。両面は1個で2つの番手をカバーできて経済的、単面は番手ごとに最適化された設計が組みやすい——用途で選ぶものです。

修正砥石(面直し砥石)|砥石を平らに保つ砥石

砥石は使ううちに中央が凹みます。これを放置すると刃物が均一に研げなくなるため、定期的な「面直し」(フラットに戻す作業)が必要。そのための専用砥石が修正砥石です。

方式特徴
金剛砂併用型砥石の上に金剛砂を振りかけて擦り合わせる、伝統的かつ安価
電着ダイヤモンド金板にダイヤ砥粒を1〜2層メッキ。初期投資は安く新品時の切削力は高いが、大きな砥粒から脱落するため経時で実効番手が細かくなる
焼結ダイヤモンド厚いダイヤ層で長く番手が安定。価格は高めだが深い凹みの修復にも対応
共摺り砥石同士を擦る伝統法。両凸・両凹がフィットして正確な平面を出しにくい
三面摺り砥石3個で摺り合わせる正確な方法。時間がかかる

修正砥石は 本体砥石より大きい(または同等)サイズ を選ぶこと。短いものは凹みを深くしてしまうことがあります。

名倉砥石|砥汁を出すための小さな砥石

仕上げ砥石の表面で擦って 砥泥(とでい) を発生させる小型の砥石。硬質な砥石は結合が強く砥粒が脱落しにくく自生作用が起きにくいため、名倉で外から砥泥を導入することで、最初の研磨を起こして自生作用を始動させる——名倉はそのきっかけを作る道具です。

携帯砥石・砥石棒(シャープナー)

角砥石とは別カテゴリの簡易研ぎ道具の総称。カーバイド刃でこそぎ取るタイプ、セラミックやダイヤ砥粒で研磨するタイプ、平滑な棒で刃先を整えるタイプなどがあり、原理は製品によってバラバラ。手軽さの代わりに、研ぎ精度や角度の制御は砥石より劣ります。

02

結合度(砥石の硬さ・軟らかさ)

5因子のうちの「結合度」は砥粒の固定強度のこと。JIS 規格では A〜Z のアルファベットで表され、A に近いほど結合が弱く(軟らかい)、Z に近いほど結合が強い(硬い)と分類されます。

  • 結合度の高い砥石(硬い砥石) — 砥粒が脱落しにくく面が崩れにくい。シャープな刃先を作りやすい。研ぎ汁は出にくい
  • 結合度の低い砥石(軟らかい砥石) — 砥粒が脱落しやすく自生発刃が活発。研ぎ汁が豊富。柔らかい鋼材に向く

同じ番手でも結合度が違えば、研ぎ味と仕上がりが大きく変わります。番手だけで砥石を語れない最大の理由のひとつ。包丁砥石業界では結合度の高いものを「硬口」、低いものを「軟口」と呼ぶ慣用語もあります。

03

鋼材から逆引きする砥石選び|決め手は「硬さ」ではなく「耐摩耗性」

「自分の包丁にはどんな砥石が合うのか」——この問いの答えは、刃物の 耐摩耗性 で大きく変わります。

研ぎとは、砥石で刃物を意図的に摩耗させる行為。だから鋼材側の「研ぎにくさ」は、本質的にその鋼材の「耐摩耗性」と同じものです。HRC(硬度)はその一要素ですが、より支配的なのは 鋼に含まれる炭化物の量と硬さ。クロム炭化物・バナジウム炭化物は、通常の砥石で使われるアルミナ砥粒と硬さで張り合うほどで、これらが多い鋼材ほど砥粒では削りにくくなります。

耐摩耗性は経験則ではなく、定量データ: 鋼材メーカーは標準試験(ナイフ用途では CATRA edge retention 試験など)で耐摩耗性を測定し、データシートやレーダーチャートとして公開しています。下記の分類は、それらの公開データの傾向とおおむね一致します。
鋼材分類代表的な鋼材適した砥石
炭素鋼系(ハガネ)白紙・青紙・SK材・黄紙アルミナ系(A・WA)の中砥で素直に研げる
一般ステンレスモリブデン系・4116・AUS-8標準的なアルミナ系中砥で問題なく研げる
高合金ステンレスVG10・銀三・AUS-10・SG2/R2中砥でも研げるが時間がかかる。良質なビトリファイドが望ましい
粉末冶金・高耐摩耗鋼粉末ハイス(HAP40)・M390・S30V・S110Vダイヤモンド・CBN、または超セラミック系の高番手が望ましい
セラミック包丁—(非金属)ダイヤモンド砥石のみ対応可
NOTE|VG10 が「最初の壁」と呼ばれる理由家庭で多く使われる包丁の中で、研ぎの最初の難所として最もよく名指しされるのが VG10 です。クロム 15% にコバルト・バナジウムを加えた高合金ステンレスで、HRC 60 前後の硬度に加え、炭化物による高い耐摩耗性が「滑る」「粘る」研ぎ感を生みます。M390・S30V・粉末ハイス(HAP40 等)はさらに研ぎにくいのですが、家庭用包丁では出会う機会自体が少ないため、家庭ユーザーが現実的に「研ぎにくい」と感じる鋼材は、多くの場合 VG10 までで止まります。
04

ALTSTONE のラインナップ|製法と用途で選ぶ

最後に、ALTSTONE のラインナップを、ここまでの分類軸に当てはめてご紹介します。製法・結合度の設計思想を理解いただいた上で、用途に応じてお選びください。

深(FUKAMI)|ビトリファイド・優しい研ぎ味のオールマイティ

ビトリファイド製法。結合度をやや低めに抑えた設計 で、どんな鋼材にも、刃の波形(断面の形状)にもオールマイティに対応します。家庭の包丁から、少しこだわった刃物まで、最初の1本として迷ったらこちら。#300・#1000・#3000・#5000 とフルラインで展開。

凛(RIN)|ビトリファイド硬口・シャープな刃付け向け

同じビトリファイド製法でも、結合度を上げて緻密に設計。シャープな刃付け、緻密に研ぎ込みたい用途に最適です。研ぎに慣れた方、仕上げ品質を追い込みたい方向け。

層一層(SO-ISSOU)|レジノイド・別系統の研ぎ味

ビトリファイドとは結合方式の異なる レジノイド製法 で展開している、ALTSTONE のもう一つの選択肢。樹脂結合ならではの研ぎ味の違いを楽しんでいただける、独自の存在感を持つシリーズです。

SUMMARY

  • 用途別には一般角砥石・修正砥石・名倉砥石・シャープナーがある
  • 結合度は A〜Z で表し、業界用語で「硬口」「軟口」と呼ぶ
  • 鋼材側の研ぎにくさは「耐摩耗性」、特に炭化物の量と硬さで決まる
  • 家庭包丁の主流(VG10 まで)はアルミナ系(A・WA)中砥で対応可
  • 粉末冶金やセラミック包丁のみ、ダイヤ・CBN を検討
  • VG10 が研ぎの「最初の壁」と呼ばれる現象は、炭化物による耐摩耗性で説明できる

— 日本のプライド、安心を、砥石で世界に届ける —

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最初の1本に迷ったら

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